北海道の標高が最も高い場所にある然別湖(しかりべつこ)は、周囲を深い森に囲まれた神秘的なカルデラ湖です。大雪山国立公園の一部に指定されており、手つかずの自然が残るこの場所で過ごす時間は、まさに非日常の連続といえます。
然別湖で車中泊を検討している方の多くは、湖畔の静寂や満天の星空、そして早朝の幻想的な景色を楽しみにしているのではないでしょうか。しかし、標高が高いため気温の変化が激しく、事前の準備を怠ると厳しい環境になることもあります。
この記事では、然別湖周辺で車中泊を安全に、そして快適に楽しむための具体的なスポット情報や注意点を詳しく解説します。北海道らしい雄大な景色の中で、思い出に残る夜を過ごすための参考にしてください。
然別湖での車中泊を計画する前に知っておきたい基本ルール

然別湖は国立公園内にあるため、どこでも自由に宿泊できるわけではありません。自然保護の観点からも、マナーを守った滞在が求められます。まずは、車中泊の拠点となる場所の選択肢を確認しておきましょう。
然別湖北岸野営場での滞在
然別湖で車中泊のようなキャンプ体験をしたい場合に、最も推奨されるのが「然別湖北岸野営場」です。ここは湖の北側に位置するキャンプ場で、車を横付けできるオートキャンプサイトではありませんが、駐車場に車を停めて周辺で過ごすことができます。
この野営場の魅力は、何といってもその静けさです。温泉街がある南側とは対照的に、街灯がほとんどないため、夜になると言葉を失うほどの美しい星空が広がります。波の音と風の音だけが聞こえる環境は、車中泊ファンにとって最高の贅沢と言えるでしょう。
ただし、利用期間は例年6月から9月下旬頃までに限られています。また、炊事場やトイレなどの設備は最小限ですので、本格的なキャンプに近い準備が必要です。管理人の駐在時間や利用料金については、事前に鹿追町の公式サイトなどで最新情報を確認しておきましょう。
湖畔周辺の公共駐車場での注意点
然別湖畔の温泉街付近には公共の駐車場がいくつかあります。観光客向けに開放されていますが、基本的には「休憩用」としての利用が前提です。ここで一晩を過ごす場合は、周辺の宿泊施設や他の観光客に迷惑をかけないよう、細心の注意が必要です。
特に、アイドリングの禁止やゴミの持ち帰りは絶対のルールです。然別湖は非常に静かな場所であるため、夜間のドアの開閉音や話し声は想像以上に周囲に響きます。周囲の環境を尊重し、「場所を借りている」という謙虚な気持ちで利用することが大切です。
また、冬季の然別湖は非常に厳しい寒さに見舞われ、駐車場が除雪作業の邪魔になることもあります。冬の車中泊は命に関わる危険を伴うため、十分な経験と装備がない限り、暖かい時期を選ぶのが賢明です。
近隣の道の駅「うりまく」と「しかおい」の活用
然別湖の山道を下りた先にある鹿追町内には、2つの道の駅があります。湖畔での滞在に不安がある場合や、より充実した設備を求める場合は、これらの道の駅を拠点にするのも一つの手です。
「道の駅 うりまく」は、乗馬体験ができることで知られるユニークなスポットです。広い駐車場があり、比較的静かに過ごすことができます。一方、「道の駅 しかおい」は町の中央部に位置し、周辺にスーパーや飲食店があるため、食材の調達や食事には非常に便利です。
然別湖畔までは車で30分から40分ほどかかるため、夜は道の駅で休み、早朝の美しい景色を狙って然別湖へ移動するというスケジュールもおすすめです。このように、無理のない計画を立てることが、楽しい旅を続ける秘訣です。
然別湖での車中泊を快適にするための準備と注意点

然別湖は標高約800メートルに位置しており、平地とは全く異なる気候条件です。快適な車中泊を実現するためには、環境に合わせた入念な準備が欠かせません。
標高800メートルの寒さ対策
然別湖の夜は、夏場であっても非常に冷え込みます。日中は半袖で過ごせるような日でも、夜間や早朝には気温が10度を下回ることが珍しくありません。春や秋にいたっては、氷点近くまで下がることも想定しておく必要があります。
車中泊では、エンジンを切った状態でも体温を維持できる装備が必須です。厚手のシュラフ(寝袋)はもちろんのこと、床からの冷気を遮断するための断熱マットを重ねるなどの工夫をしましょう。また、ダウンジャケットやフリースなどの防寒着は、季節を問わず持参することをおすすめします。
窓の断熱も重要なポイントです。車のガラスは熱を通しやすいため、シェードや自作の断熱材で窓を覆うだけで、車内の温度低下を劇的に抑えることができます。これは結露防止にも役立ち、翌朝の片付けがスムーズになります。
食料と燃料の調達タイミング
然別湖周辺にはコンビニエンスストアやスーパーマーケットがありません。最も近い商店でも、山を降りて鹿追町の市街地まで行く必要があります。そのため、必要な食料や飲料水は、山に登る前に必ず確保しておかなければなりません。
また、燃料についても注意が必要です。峠道を走るため燃料の消費が激しくなる上に、周辺にガソリンスタンドはありません。ガス欠の心配をせずに滞在を楽しむためにも、鹿追町内や上士幌町内で早めに給油を済ませておきましょう。
車内での調理を検討している方は、カセットコンロなどの火器の使用にも注意してください。車内での火気使用は一酸化炭素中毒の危険があるため、必ず換気を徹底するか、できるだけ火を使わずに済むメニューを考えるのが安全です。
野生動物との遭遇を避けるために
然別湖周辺は、ヒグマやエゾシカ、キツネなどの野生動物の宝庫です。特にヒグマが生息しているエリアであることを忘れてはいけません。車中泊の際に最も注意すべきは、「ゴミや食べ物の管理」です。
食べ残しやゴミを車外に出したままにしておくと、その匂いに誘われて野生動物が近づいてくる原因になります。ゴミは必ず密閉して車内に保管し、指定された場所以外には絶対に捨てないでください。これは、自分自身の安全を守るだけでなく、野生動物の生態系を守ることにも繋がります。
また、夜間にトイレなどで車の外に出る際は、周囲に動物がいないかライトで確認するようにしましょう。エゾシカなどの大型動物は道路に飛び出してくることもあるため、夜間や早朝の走行も慎重に行う必要があります。
然別湖での防寒対策メモ:夏でも「薄手のダウン」や「ブランケット」は必須。足元からの冷えを防ぐために、厚手の靴下も用意しておくと安心です。
然別湖の車中泊で体験したい素晴らしい景色と過ごし方

不便な点も多い然別湖での車中泊ですが、それを補って余りある魅力的な景色がここにはあります。車中泊だからこそ味わえる特別な瞬間を楽しんでください。
湖畔から眺める日本屈指の星空
然別湖が「星の聖地」とも呼ばれる理由は、周囲に光を遮る山々があり、人工的な明かりが極めて少ないからです。空気が澄んでいる秋から冬にかけては、天の川が肉眼ではっきりと確認できるほどの濃密な星空が広がります。
車中泊なら、夜中にふと目を覚ました瞬間、目の前に銀河が広がっているという贅沢を味わえます。リクライニングシートに身を預け、温かいコーヒーを飲みながら星を眺める時間は、日常のストレスをすべて忘れさせてくれるでしょう。
流星群の時期に合わせて訪れるのもおすすめです。遮るもののない広い夜空で、次々と流れる星を見つける体験は、一生の思い出になります。三脚を立てて星景写真を撮影するのも、時間を気にせず過ごせる車中泊ならではの楽しみ方です。
唇山(くちびるやま)に映える朝日の美しさ
然別湖のシンボルといえば、湖面に映る形が唇のように見える「天望山(通称:くちびるやま)」です。この山の間から朝日が昇る光景は、非常に神秘的で多くの写真家を魅了しています。
車中泊をしていると、朝の最も美しい瞬間を逃さずに済みます。薄明の空が徐々にオレンジ色に染まり、湖面に霧が立ち込める「けあらし」が見られることもあります。太陽の光が差し込み、景色が鮮やかに彩られていく様子は、早起きをした人だけが受け取れるご褒美です。
朝食の前に湖畔を散策するのも良いでしょう。静かな水面を眺めながら歩いていると、心が洗われるような清々しさを感じられます。都会では決して味わえない、ゆっくりと流れる時間を存分に堪能してください。
ナキウサギやエゾシカとの出会い
然別湖周辺は、氷河期の生き残りといわれる「エゾナキウサギ」が生息している貴重なエリアです。非常に警戒心が強く、小さな体をしているため見つけるのは大変ですが、早朝の静かな時間帯なら「ピィッ」という高い鳴き声を聞くことができるかもしれません。
また、道路脇や林の中ではエゾシカの姿もしばしば見かけます。車の中からそっと観察する分には安全ですが、餌をあげたり近づきすぎたりしてはいけません。野生動物との適切な距離感を保ちながら、彼らの暮らしを少しだけ覗かせてもらう気持ちが大切です。
双眼鏡を持参すると、対岸の森を探索したり、水鳥を観察したりする際に役立ちます。自然の中に身を置くことで、五感が研ぎ澄まされていく感覚をぜひ楽しんでみてください。
然別湖でのおすすめアクティビティ
・カヌー:早朝の静かな湖面を滑るように進む体験は格別です。ガイドツアーに参加すると、より深く自然を理解できます。
・ネイチャーウォッチング:ナキウサギや珍しい高山植物を探しながら、周辺の散策路を歩いてみましょう。
・温泉:車中泊の疲れは、後述する湖畔の温泉でゆったりと癒やすのがベストです。
然別湖周辺でおすすめの入浴施設とリフレッシュスポット

車中泊の旅において、お風呂は最大の楽しみの一つであり、心身をリフレッシュさせるために欠かせない要素です。然別湖周辺には、質の高い温泉が揃っています。
然別湖畔温泉「ホテル風水」での日帰り入浴
然別湖のすぐ目の前にある「ホテル風水」では、宿泊客以外も利用できる日帰り入浴を受け付けています。ここの最大の特徴は、湖を一望できる展望露天風呂です。源泉かけ流しの濁り湯に浸かりながら、刻々と変化する湖の表情を眺めるのは最高の至福です。
泉質はナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉で、体が芯から温まると評判です。車中泊で冷えた体を温めるにはこれ以上の場所はありません。利用時間や料金は時期によって変動があるため、事前に電話などで確認しておくと安心です。
ロビーの喫茶コーナーで湖を眺めながら休憩することもでき、長旅の合間のリフレッシュには最適のスポットといえるでしょう。清潔な脱衣所や洗い場が完備されているのも、車中泊旅行者には嬉しいポイントです。
ぬかびら源泉郷まで足を伸ばす楽しみ
然別湖から車で約45分ほど峠を越えた場所には、歴史ある「ぬかびら源泉郷」があります。ここは全ての宿が源泉かけ流しという温泉好きにはたまらないエリアです。然別湖とはまた違った、深い森に囲まれた温泉街の情緒を楽しむことができます。
ぬかびら源泉郷では「湯めぐり手形」を発行しており、複数の宿のお風呂をお得に回ることが可能です。レトロな雰囲気の公衆浴場から、開放感あふれる混浴露天風呂まで、バリエーション豊かな入浴体験が待っています。
道中の「幌加除雪ステーション」付近は、かつての国鉄士幌線の廃線跡が見られるスポットでもあります。ドライブを楽しみつつ、温泉をハシゴするという贅沢な過ごし方も、車中泊という自由な旅のスタイルにはぴったりです。
鹿追町内の温水プールや公衆浴場の活用
山を降りて鹿追町内に入ると、よりリーズナブルに利用できる施設もあります。「鹿追町トリムセンター」には温水プールが併設されており、シャワーや入浴施設を利用できる場合があります。また、地元の人が利用する公衆浴場は、旅の途中に立ち寄るには丁度よい存在です。
町内の施設を利用するメリットは、買い出しや給油を同時に済ませられる点にあります。日中は町で必要な用事を足し、夕方になる前に再び然別湖の静寂へと戻っていく。そんな効率的な動きができるのも、拠点を自由に選べる車中泊ならではのメリットです。
温泉でさっぱりした後は、地元の牛乳やソフトクリームを楽しむのもお忘れなく。十勝エリアの質の高い乳製品は、湯上がりの体に染み渡る美味しさです。
鹿追・十勝エリアのグルメを満喫するドライブコース

車中泊の旅を彩るのは、その土地ならではの美味しい食事です。然別湖がある鹿追町や周辺の十勝エリアは、日本屈指の食の宝庫として知られています。
鹿追産そばの香りと味わい
鹿追町は道内でも有数のそばの産地です。昼夜の寒暖差が大きいこの土地で育ったそば粉は、香りが強く、甘みが豊かなのが特徴です。町内にはこだわりのそば店が点在しており、食べ歩きを楽しむことができます。
特におすすめなのが、石臼で自家製粉した「十割そば」です。つなぎを一切使わないそばは、噛むほどにそば本来の風味が口いっぱいに広がります。冷たいおろしそばや、地元の山菜を使った天ぷらそばなど、季節ごとの味覚と一緒に堪能してください。
そば店の中には、古い民家を改装した店舗や、窓から広大な畑が見えるお店もあり、食事の時間そのものが観光になります。然別湖への行き帰りに、ぜひお気に入りのお店を見つけてみてはいかがでしょうか。
十勝の新鮮な乳製品とカマンベール
十勝といえば酪農の王国です。鹿追町にも多くの牧場があり、新鮮な生乳を使った乳製品が豊富に揃っています。車中泊の朝食に、地元の牛乳やヨーグルトを添えるだけで、一気に豪華な気分になれます。
特に「カマンベールチーズ」や「熟成チーズ」は絶品で、夜にお酒を楽しみながらつまむのにも最適です。直売所では、スーパーでは見かけないような珍しい種類のチーズに出会えることもあります。
また、濃厚なソフトクリームも外せません。牧場直営のショップで食べるソフトクリームは、一口食べればその鮮度の違いに驚くはずです。ドライブの休憩がてら、十勝の恵みを贅沢に味わってみてください。
地元の直売所で手に入る旬の野菜
車中泊で自炊をしたり、お土産を探したりするなら、地元の農産物直売所は外せません。鹿追町周辺では、ジャガイモやトウモロコシ、アスパラガスなど、北海道を代表する野菜が驚くほど安く、そして新鮮な状態で販売されています。
特に秋に収穫されるジャガイモは、種類も豊富でホクホクとした食感がたまりません。車内で手軽に調理できるなら、蒸したり焼いたりするだけで立派なご馳走になります。
また、最近では鹿追産のマンゴーやチョウザメ(キャビア)など、意外な特産品も注目を集めています。直売所を巡ることで、その土地の農業の深さを感じることができ、旅の満足度がさらに高まることでしょう。
グルメ情報のポイント:鹿追町内には「オショロコマ(イワナの仲間)」料理を提供しているお店もあります。然別湖にしか生息しない貴重な魚(現在は保護のため釣ることは制限されていますが、養殖ものが提供されています)を味わうのも貴重な体験です。
然別湖での車中泊を最高の思い出にするためのポイントまとめ
然別湖での車中泊は、北海道の深い自然と一体になれる素晴らしい体験です。最後に、安全で楽しい旅にするための重要なポイントを振り返りましょう。
まず最も大切なのは、「徹底した防寒対策」です。標高800メートルの環境を甘く見ず、夏場でも冬に近い装備を準備しておくことが、快適な睡眠を確保する鍵となります。断熱材や高品質な寝袋を活用し、冷え込みに備えてください。
次に、「野生動物への配慮とマナー」です。ゴミの管理を徹底し、動物を寄せ付けない工夫をすることは、自分自身の安全だけでなく国立公園の環境維持にも直結します。アイドリングストップや騒音への配慮を忘れず、周囲と共生する姿勢を持ちましょう。
そして、「事前の情報収集と計画」も欠かせません。食材や燃料の調達場所、入浴施設の営業時間、道路状況などを事前に把握しておくことで、現地で慌てることなく過ごせます。特に然別湖周辺は利便性が高くないからこそ、計画性が旅の質を左右します。
然別湖でしか見ることのできない星空、朝霧に包まれた湖面、そして心地よい温泉。これらの魅力を存分に味わうために、ルールを守りながら自由な車中泊の旅を楽しんでください。この記事が、あなたの北海道観光の素敵な一助となれば幸いです。



